街の灯り、ふたたび【戸越銀座物語】1話 クオリティ・オブ・ライフ

戸越銀座へ視察や研修にみえる学生に「あなたには商店街が必要ですか?」と聞いてみる。

街づくりや経営、コミュニティデザインなどを学んでいる学生が、商店街の理事長を目の前にして「必要ありません…」とは言いづらいだろうと思っていると、実はそうでもない!

約8割以上はしばらく考えてから、たいがい同じようなことを言う。

「必要かと聞かれれば必要」「でもなぜ必要かがあまりはっきりしない」「ないと困るかというと困らない」「生活していく上で影響がない」というのが、彼らから見た商店街の現状だからだ。

バブル期を境に日本経済は長い間、低迷し続けている。商店街や中心市街地活性化の重要性が日本各地で説かれたこの20年間、結局、日本中に薄暗いシャッター商店街が増殖し、商店街というビジネスモデルは一見、再生不能のように映る。

しかし、実は大きなチャンスが到来していて、今後の地域コミュニティ再生には商店街というビジネスモデルが大きな役割を果たすと私は思っている。

大型の家電量販店や大手の書店などパソコンやスマートフォンなどによる通信販売の台頭で急速に方針転換を迫られ、さまざまな業界からの通信販売への参入が相次いでいる。

多様なライフスタイルの中、ものを買うだけであればいつでもほしいときに、ほしいものが、ほしい値段で手に入る時代になっている現在、その対極にある商店街が、なぜチャンスなのか。

「クオリティ・オブ・ライフ」。

人生の内容や質にこだわる人が増え、居住の快適さが求められ始めている。

商店街はなくても困らないが、こんな商店街の近くに住んだほうが暮らしはより豊かになる、「あったらいいなあ」と思う街、ふるさとが元気で楽しい自慢できる存在であり続けるために、活気あふれる商店街を地域住民や若者の参加で実現していく方法がきっとあるのではないだろうか。

私の故郷・戸越銀座は、日本のどこにでもあるような私鉄沿線の駅前から連なる商店街だ。その戸越銀座通りという通りにいくつかある商店街のひとつ「戸越銀座銀六商店街振興組合」で、およそ90年続く時計店の三代目として、また商店街の理事長として、この街で現在も商売を続けている。

会社を辞めて家業を継いで20年間、商店街や地域社会と向き合い、故郷にプライドを持ち「こんなはずじゃない!自分の知っている商店街はもっと輝いていた!」と、怒りにも似た感情で商店街と関わってきたが、この数年、何かが変わり始めたのを感じている。

商店街の街路灯が暖かくともり、笑顔で行きかう人々を照らす—そんな街の灯りを再び活気づかせられるのは、商店主だけではなく、商店街を歩く街の人々や商店街を無邪気に走りまわる子供たちだと思う。

(街の灯りふたたび 戸越銀座商店街物語著者:亀井哲郎氏より寄稿)